3話 新製品




 明日は町内で学年別のつるぎ対戦がある。
 蘇我は毎年それで一位を取っている。
 あたしはそもそもそれには出ない。
 どうせ負けるもん。
 しかし、各学年のトップ同士の対戦となると厳しい。
 去年、蘇我は小学校四年生で一位だった。その後の団体戦で負けた様な記憶がある。確かに、あたしはその時大泣きした。
 だって蘇我の「大鷲つるぎ」がすごく痛そうで、かわいそうだったんだもん。
 そしたら、蘇我がこっち見て、困った顔して対戦場からカードを抜いたんだ。
 やだ、それじゃあれって、あたしのせいなの?
 そういえば、去年も一昨年も、あたしが泣いた気がする……。
 あたしが自分のしたことを思い出して頭を抱えていると、お父さんが帰ってきた。
 玄関の開く音がしたんだ。
「おかえり、お父さん」
 ぱたぱたと出迎えに行くとお父さんはいつもの笑顔であたしを抱き上げた。
「ただいま、蛍」
「ご飯できてるよ。お風呂も沸いてるからね」
「ありがとう、蛍がいい子だから、お父さんはいつも元気にお仕事できるんだよ」
 にこにこと言う。あたしは照れくさいやら、嬉しいやらで、お父さんの手の中から逃げ出した。
「やだ、恥ずかしいよ、お父さん。早くお風呂に入ってよ」
 お父さんはにこにこと頷く。
「そう言えば、つるぎの制作で全然お風呂入ってないなぁ」
「えっ、やだ! 一週間も帰ってこないと思ったら、何してたの! お父さんの馬鹿!」
「すまんな、今やってるプロジェクトがなかなか終わらなくてなー」
 お父さんは「つるぎ」を作っている会社で働いている。つるぎは一枚が決して安くない。 更にその中に入れる記憶や意識が、カードとなることを拒んだら、そのつるぎは破壊されるのだ。
 だから、だいたいみんなペットなどの仲のいい意識を使う。
 写真やビデオ、あるいは愛用していた道具などを使うと、その意識がつるぎになり、カード化するのだ。
「今度の新発売はすごいぞー。なんと、人も中に入って戦える対戦場だ!」
「ふーん」
 あたしはそんなのあまり興味ないから、適当に相づちを打った。お父さんは話し終わるまでお風呂に入る気ないのかな。
「人が自分が危ないと思ったら、手元のエスケープボタンを押すんだ。すると、つるぎと一緒に外に出られる。つるぎが危ないと思って押しても人とつるぎは共に外に出る。どうだ、すごいだろ!」
「……ふーん」
 けっこうどうでもいい。
「しかも、つるぎを剣として使用することも出来るんだぞ! これで、チャンバラ好きの蘇我くんも参加できるよ!」
「それ、危なくないの?」
 ちょっと心配になって聞くとお父さんは手を振った。
「全然。即死レベルの攻撃を受けてもちょっとピリってくるだけ。でも、つるぎが破壊されたら、やっぱりつるぎは元には戻らないよ」
 あたしがキュウを戦わせたくない最大の理由はこれ。
 壊れたら、そのカードは死んじゃうのだ。
 二度、カードになる可能性はかなり低い。
 だからあたしも蘇我も、決して無理はしない。あたしはキュウを、蘇我は大鷲のつるぎを大好きなんだもん。
 ちなみに蘇我の大鷲は、蘇我のお父さんが、動物園に勤めていて、その大鷲の羽を一個、貰って作ったらしい。
 えらい強くて、蘇我のお気に入りなのだ。
 ……まあ、今日はあたし相手だから大鷲を出すまでもないって思ったんだろうな。
「それ、いつから発売なの?」
「うーん、明日の町内対戦で使ってみようって話があるよ。発売自体は今月中だと思うけど」
「うちも買える?」
「無理。高いから。今までの対戦場で満足しておくれ」
「はーい」
 がっかり。あたしも対戦場に入れるなら、キュウと遊べるかと思ったのにな。
「それよりお父さん、お風呂に入ってよ」
「おお、ごめんな」
 言ってお父さんは背広を脱いで、お風呂に向かう。
 あたしは奥さんみたいにお父さんの背広を片づけた。
 あたしはお母さんの顔を見たことがない。
 父娘二人で暮らしている。それでいいし、お父さんは優しいから大好きだ。
 でもたまに、ほんとにたまに、お母さんが欲しいな、って思う。
 おうちに帰ってお母さんがいたら、ほんとに嬉しいんだけどな。



















4話 大会前









1話 夢の出会い
2話 日常
3話 新製品

5話 ライバル?
6話 ネオドランス
7話 とりかえしのつかない戦闘
8話 夢のなかで
9話 剣を求めて
10話 夢の通い路

11話 きつねつるぎ
12話 その後












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