11話 きつねつるぎ
「まちぶせしてんのか?」
「うん」
通学路。学校のちょっと手前で待っていると、お目当ての人が来た。
中島くんに、山口くん。
一緒にいてくれて良かった。
「この前の仕返しかよ」
「うん」
あまりにもあっさりあたしが頷くので、気勢がそがれた感じの中島くんが言った。
「でもお前、つるぎねえじゃんか。まさか、素手でけんかすんのか?」
「ううん。つるぎで」
「新しいの作ったんか?」
「ううん。キュウだよ」
「……?」
中島くんはいぶかしそうにあたしをみた。
「この前のネオドランスに行こう」
「学校は?」
「さぼって」
うちに帰ったらお父さんにすごい勢いで叱られるだろう。
それを思うと憂鬱になるけど、仕方ない。
放課後じゃ間に合わない。蘇我にやられるまえに、ぜったいやらなきゃいけないんだ。
「……いいよ」
驚くほど素直に中島くんが言った。
あたしは不思議な気がした。
そしてあたし達三人は公民館に向かったのだった。
「中島くん達はつるぎが大切じゃあないの?」
あたしはネオドランスの前で、二人に聞いた。
山口君はふてくされたように言った。
「何言ってんだよ。大切だと思ってるよ」
「つるぎが死んだら……泣ける?」
「……」
俺は泣けない、と中島くんは言った。
山口君も頷いた。
「俺にとってつるぎは高くて面白い玩具にしか過ぎないね」
そう言って。
あたしは二人を見てい言った。
「じゃあ、きっとこれを手に入れることも、無いんだと思うよ」
「何の話だ?」
「これ」
あたしはつるぎを見せた。いぶかしげな二人の目が段々と驚きに見開かれた。
「それ……! 狐つるぎ!!」
悲鳴のような声をあげる。
そう、キュウの外見はそのままに、名前が「きつねつるぎ」に変わったそれを見て。
「約束して。あたしが負けたらこれをあげる。そのかわりに、二人が負けたら、もう二度と蘇我にちょっかいを出さないで」
二人はごくりと唾を飲み込んだ。
そうしてこっくりと頷いた。
狐つるぎが手に入る。
その喜びが大きすぎて二人とも考えがつかなかったのだろうか。
狐つるぎが幻と言われたことを。
そして、その幻と言われるものは大抵強いものだって。
ゲームが始まった。
山口くんは犬のつるぎを。そして中島くんは熊のつるぎを。
2対1で始まった勝負が決まるのに時間はかからなかった。
草原に、キュウとあたしが立っていた。
足下には2匹の動物が。
勝敗はあまりにもあっさりついた。
あたしは、狐つるぎの使い方を知っていた。
キュウは、あたしの命令通りに素早く動き、他の二匹を倒した。
狐つるぎはなんにでもなれる。
その通りだった。
柴犬は時に鷹に変化し、また豹に変化して次々と相手を倒した。
豹の姿で犬のつるぎを倒し、熊つるぎは鷹になって急襲したかとおもうと、キュウ自身も熊になって力業で倒したりした。
そして。
目の前の景色が変わり、あたしはネオドランスの世界から出た。
「あたしの勝ちだよね」
「……」
二人とも悔しそうにあたしを睨んだ。
「約束通り、もう蘇我にちょっかいかけないで。蘇我が勝負を仕掛けてきても逃げてね」
「……わかったよ」
中島くんが言った。
「何でお前、蘇我と俺達を勝負させたくないんだよ」
「蘇我につるぎを殺させたくないの」
殺せば殺すほど、蘇我のつるぎの気持ちは蘇我から離れていくだろう。
そして、蘇我もいつか、剣を道具と考えてしまうかもしれない。
「それが、嫌なの」
「……」
二人はつるぎを引き抜いた。
それは、体力が残り少ないけれど決して死んではいなかった。
「だからあたしも殺さないよ」
あたしはにっこり微笑んだ。
「じゃあ、そっちも約束しろよ!」
中島くんが叫び、あたしはきょとんとした。
「何を?」
「俺とまた勝負しろ! その狐つるぎ、絶対手に入れてやるからな!」
あたしはあっけにとられた。
次いで吹き出した。
「いいよ! いつでも受けるよ!」
「よし!」
言って無邪気に喜ぶ中島くんに笑いかけて、あたしは学校に向かった。
キュウは、常にあたしのポケットにいる。
狐さん、ありがとう。
あたしね、いつも蘇我に守られてたから。
だからいつか、蘇我を守ろうって思ってたんだ。
だからそれができてちょっと嬉しい。
学校に着くと、先生に怒られ、蘇我に怒られ、さらには家についたらお父さんにものすごく怒られたけど。
ちょっと半泣きになったけど、あたしはキュウをぎゅっと握りしめて頑張った。
キュウはあたしに元気をくれる。
狐つるぎになったからとかじゃなく、キュウと一緒ならあたしは無敵なの。
12話 その後
1話 夢の出会い
2話 日常
3話 新製品
4話 大会前
5話 ライバル?
6話 ネオドランス
7話 とりかえしのつかない戦闘
8話 夢のなかで
9話 剣を求めて
10話 夢の通い路
11話 きつねつるぎ
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