2 SECOND CONTACT!
<GYAI>+<COCONATTSU>+<RIPP>
燦々と日差しが降ってくる。そのうららかな青空の下、見つめ合う二人がいた。
……・・・・。……・訂正しよう。睨み合う二人がいた。
彼らはもう30分以上もその緊迫した状態を続けていた。
「……譲る気はないよ!」
「お互い様だろココ。オレだって譲れねえ」
彼らのもみ合う理由を言おう。平野の一本道を進んでたらなにやら二股の分かれ道が出できたのだ。何気なくココナッツは左を選び、ギャイは強硬にそれに反対した。
「左はだめだ。左だけはだめだっ!たとえ何があろうともオレは嫌だっ!あああ左って言っただけで気分が悪くなってきたぅおぅ。かつてオリンポスでも左は魔性の道って言われてたんだぞココ。やだろ?」
「…………なんか左に対して異様な少年時代でも過ごしたんかいギャイは。それにしてもよくそんなこと知ってたね」
「いや今オレがでっち上げたんだけどさ。…………それはさておき!」
ココナッツの目が半眼になったのを見て慌ててギャイは話を逸らした。
「ともかく右だ。右に行こうぜ。こっちの方がリージア国に近い道だろ?」
「そうだけどさ、ギャイがそんなに強硬に反対するもんだからもはやこっちも意地でね。譲れないよっ!」
「うだああああっ!ココはどっちでもいいんだろ?オレは右でないと嫌だ。嫌って言うかもう駄目だ。左に行ったら泣くぞ!」
「好奇心をそそられた。さ、行こうか。ギャイ」
「うだあああああああぁぁあぁぁっ!!」
このアマ、とギャイが罵って蹴り飛ばされる。
ココナッツは肩をすくめて
「大体こっちって何があるのよ?そんなにギャイが嫌がる何かがあったっけ?」
「……………………………………。………………実家」
「…………はぁ?」
「じ・っ・か!つまり、オレの家があるんだよ!」
「ぇぇえええええっっっっ!?」
ココナッツは驚いて抱え持っていたリップを落としてしまった。
「ぴきゅぅっ!きゅうぅ!!」リップがワンバウンドしてから抗議するように鳴いた。
ギャイはそのウサギをひょいっと拾う。今までの経験上ギャイに持たれていても良いことなんぞありゃしねえとでも思ったのか、リップの暴れること暴れること……。
結局殴って黙らせた。……リップ……君に幸あれ……。
「ギャ、ギャイ……あんたにも生まれ故郷ってあったの!?」
「ココ、お前オレをなんだと……」
「い、いやぁ……故郷かぁ・……昔は血しぶきとバイオレンスの日々だったよねぇ・・・」
「……オレは、お前と一緒の今が毎日血しぶきとバイオレンスの日々だぞ」
ギャイはうんざりげに遠くを見つめた。
……そう……ココナッツが龍のお供え物を食べては殺されかかり、ココナッツが殴り飛ばしたガキが領主の息子だったり……。
リップが噛みついたネコが実はモンスターだったり……。
「ろくな目にあってねーじゃねーか!オレは!」
過去を思い出してなおさら泣けてきた。
自分もフィレスト国を潰したことはさておいて、ギャイはココナッツにくってかかる。
「いいか、オレはもうお前の後始末は嫌だぞ!もしオレの故郷の村に行くんだったら、ここで別れよう。んで、リージア国でおち会おう。……どうする?」
「ふうん……いいよ、そうしよっか」
ココナッツは明るく答える。この二人が別れるのは実は、初めてのことである。
ギャイは、どうあっても譲れず、ココナッツはこの際ギャイの弱みでも見つけてこようとか考えていた。要するに好奇心である。
「そうだな、あの村を通ると……順調にいって3日だ。だから3倍だな。10日後にリージア国で」
「こらこらこらこら!!」
異議あり!とココナッツが手を挙げる。
「何で3倍になるの!?いくら私だってそんなにゴタゴタ起こしたりしないよ!」
「今までの経験上お前は三日に一回は墓穴に向かって超猛突進していく。それで倍。さらに、な……。あの村を通るなら、もう三日は必要だろうと思ってな」
「へ?」
「……まあ、ろくな村じゃねぇからな……。一応止めておくけど、やっぱり行くのか?」
「んー……。おみやげは何がいい?」
「うわさんざん脅かしたのにきっちし行く気だしこのアマ」
ギャイはため息をついて天を仰いだ。
ココナッツは笑って言った。
「そりゃまあ、こんな笑えるチャンスめったに無いし、ね。ギャイの家って、どこ?」
「あ、そうだ!これだけは守れよ。オレの名前を出さない方がいい。……ってゆーか、出したらたぶんフクロだ」
「ええ?」
話せば長くなるんだが、と額にしわを寄せてギャイは話し出した。
「省略しまくると、オレはあの村で、むっちゃくちゃひどい悪いことをしたんだ。自宅なんか勘当されて叩き出された。すべてを許すはずのティノティス神の神父ですらゆでたこになって怒ったもんなあ」
「ははあ……。それは珍しい……」
ココナッツは途中で立ち寄ったティノティス神殿の神父達の優しい笑顔を思い出して言った。
「そんなわけでオレの名前も、仲間って事も言わないほうがいいぜ。とばっちりが行くから」
「わかった。じゃ、ギャイ。3日後に!リージア国の国境にある村でね」
「安心しろ、15日くらいまでなら待っててやる」
「べーだ」
その別れ道で、ギャイは右に、ココナッツとリップは左に向かって歩いていった。
ふとギャイはココナッツに向かって叫んだ。
「あ!そうだ!おーいココ!おみやげは、ティノティス神殿の神像にしといてくれ!よろしくな!」
「ギャイ!あんたあほかい!んなもん持ってったら袋叩きだってば!」
叫び返して、ココナッツはふと気付くものがあった。
…………袋……叩き……?
向こうの方でギャイの笑う声が聞こえた。
「できないことはないぜ!オレがやったからな!」
「ギャ……!」
ココナッツが叫び返そうとして右の道を見ると、もうそこにはすでにギャイはいなかった。
柔らかい風がココナッツの髪を撫でる。
…………やっぱり行くのよそっかな…………。
ココナッツはとてつもなく悪い予感がした。
…………得てしてそう言う予感は当たるもんである。
* * * * * * *
どよーん。
その村に行く途中の森は、擬音で表現すると激しくそんな感じだった。
「…………」
ココナッツは黙って後ろを振り向いた。
自分の足跡が微かに歩んだ道のりに残ってる。一本道なのでここまでは迷わなかった。
「……か……帰ろっか、リップ」
「……きゅ、きゅうん」
うさぎは迷わず同意する。
「何でギャイってばこーゆー怖いことを教えてくれないのかなぁ!もう!」
初めの森からしてこうである。ギャイがもろくそ嫌われてる村は言わずもがな、望みなんぞ持てたもんじゃない。
一人ではあんまり行きたくない。今度ギャイか、またはもう一人の知り合いとでも来よう。
「か、帰ろ帰ろ」
今からダッシュで戻ればギャイに追いつけるかも……。ココナッツは駆け出そうとした。
その時!!
「待て!」
ザス!ザス!ザス!!
「…………!」
ココナッツの近くに数本の矢が突き立った。驚いて矢が飛んできた方向を見ると、森の木の上に一人、鋭い目つきの少女が矢をつがえて立っていた。
年は、15才くらい……ココナッツより、1つ2つ上だろう。
「な、何するのよ!」
「矢を射った」
少女は淡々と答えた。
「それは力一杯解ってる。どういうつもりかって事だよ!」
ココナッツは言いながら、右手のほうきに魔力を込めた。空を飛んで逃げるつもりだ。
「動くな。次は射つ。手でも、足でも死なないところを」
少女がまた先を制す。続けて言った。
「私はサイラ。YESかNOかで答えろ。さっき聞こえたのだが、ギャイというのはお前の知り合いか」
「…………YES」
聞こえてしまったのならとぼけても無駄だろう。ココナッツはリップを撫でながら答えた。「あんたも知り合いにいる?」
「ああ。私の……いや、そんなことはどうでもいい。お前の名は?」
「ココナッツ。ココって呼ばれてる。リージア国に行く途中なんだけど」
「そうか……。手間をかけてすまないが、うちの村に寄ってくれ。この道でも行ける。
お前の言うギャイと、我々の言うギャイが違ってたらすぐに帰す」
「……同じだったら……?」
「……」
サイラは黙って矢をしまった。そうしてその右手をすぅっと森の奥に指す。
「ラガール村。私の村だ。行こう」
彼女は答えを言う気がなさそうだった。ココナッツは、一見神妙にしながら、わくわくして彼女に近寄っていった。
「ねえサイラ。ここからどれくらいでその村に着くの?」
「ん……?1日くらいだ」
「そっか」
ギャイの村。初めて行く、相棒の故郷……。
ココナッツは優しく目を細めた。
「く……くっくっくっく……」
「ちょ、ちょっと待てお前怖いぞ、おい」
サイラはいきなり含み笑いを始めたココナッツの隣に降り立った。
「あ、ううん!何でもないよ!ね、リップ」
ココナッツは慌てて手を振って、天使のような笑顔を向けた。リップもきゃぴるん☆とした目でサイラを見る。
…………なんか……騙されてるような気がする。
サイラは少し思ったのだが、いやしかし、首を振った。
もしかしたら本当にギャイを知ってるのかも知れない。5年も待った。でも奴は帰ってこなかった。
最後の手がかりかも知れない。
あの犯罪者、ギャイ……。サイラの唯一無二の……。
サイラは、ココナッツに声をかけた。
「行こう。案内する。……ココ」
「うん☆」
「きゅうん☆」
…………やっぱり何となく不安だった。
* * * * * * *
「こっちだ。この道からはずれると、ろくな目に遭わないからくれぐれも…………何をしてる」
「……た、助けてくれると嬉しいんだけど」
網が落ちてくるトラップに引っかかってもがくココナッツを淡々と見つめるサイラ。
「……仕方ない。動くな」
「う、うん」
腰に下げたナイフでココナッツの上の網を引き裂くと、サイラは呆れたように笑った。
「器用な奴だな。何故トラップにばっかりひっかかるんだ。もう大抵のトラップを壊してしまった。あとでトウヤに言って直してもらわなくては」
「……トウヤって?」
「ギャイの……私が知ってるギャイの兄だ」
どんがらがしゃぁん!!
いきなりココナッツはすぐそばの落とし穴に落ちて自滅した。
「お、おい!無事か!?」
「…………なんとか……」
思いっきり穴の中の水をかぶってしまったココナッツは犬のように首を振って水気を払った。
兄……ギャイに、兄がいたとは……。あまりに不意打ちだったので、力一杯足を滑らしてしまった。
「つかまれ。頼む、そろそろトラップを壊すのをやめてくれないか……」
「前向きに善処します、はい」
サイラに引っ張り上げてもらうと、ココナッツは、ふと回りを見た。
「あ、あれ……?リップがいない……」
「え?…………ホントだ。探すか?」
「ん……。いいや。たぶんすぐ帰ってくるよ。それより村は?」
サイラは首を振った。
「まだだ。1日かかると言っただろう。そろそろ野営しなくてはならない。夜は獣の天下だ。無理をして進むと、食われる」
「う……。それはちょっと嫌だよ。それじゃ、野営する?」
「そうだな」
サイラとココナッツはそこから少し行った辺りの少し視界が開けた場所に来た。
ギィ……ギィギィ・・・・グルルゥルル……
ギャイン!ガウゥ!グオオォォンン!!
獣の声が辺りを包む。奥深い森は、だんだんと日が暮れて、サイラの白い鎧がぼんやりとしか見えないくらい暗くなっていた。
「ここでいい。薪を拾ってくるから、待ってろ」
「うん。私も行こうか?」
「やめてくれ!トウヤにあまり負担をかけたくない!!いいか、絶対動くなよ」
会って数時間にしてもうココナッツは取扱注意、危険物のレッテルを貼られてしまったようだ。
はたまた罠殺しか……。
絶対に動かないよう言い含めて、サイラは木々の間の闇に消えた。残されたココナッツはつまらなそうに辺りを見回した。
木と闇と獣の声しかない。
「今の隙に逃げるって手もあるんだけどね。やっぱここまで来たら、見てみたいし。ギャイの家と、兄ちゃん!」
にんまりとココナッツは笑った。
ギャイがそこにいたらまず間違いなく「なんて性格悪いんだてめーは」とかなんとかため息でもついただろう……。
その時、何となく寒気を感じてココナッツは空を見上げた。
「暗いなあ……。うん……と、『小さな小さな炎の舞よ、小さな小さな光になあれ。3,2,1,』」
ポンッ
軽い音と供に近くの枯れた枝に灯がともった。魔法の光なのでそれ以上燃え移らない。
「これでよし、と。さてと、どうしようかな」
ところがどうする間もなくサイラが帰ってきてしまった。
「ただい……ああっココ!!」
枯れ枝をたくさん抱えたサイラは、ココナッツを見たとたん枝をぶっちゃけて駆け寄ってきた。
「あ、おかえり、サイラ。大丈夫だよ、これは燃え移らない火だから」
「ち、違うんだ!ここの獣は火によって来る習性が有る!枝と枝に隠して燃やそうと思ってたんだが……。ともかく早く消してくれ!」
「……。…………どうするんだっけ?」
「………………。……まさか…………」
へへへ、とココナッツは照れ笑いをした。
「いつも、ギャイが消してたんだった。ごめんサイラ」
サイラはグラリと揺れた。
……いっそこのまま倒れたいかも……。
ちらりと思うサイラだった。
「ねえ、サイラ……?」
「あ、ああ。じゃあとりあえず枝で隠そう!」気を取り直してきぱきとサイラは枝を火の上に積み上げた。ココナッツも手伝う。
ほんの数分で、火はちらちらと微かに見えるぐらいにまで隠れた。
「ふう……」
「燃え移るタイプの火でなくて良かった。ここには、ザフェルグという豹型の獣がいてな。そいつはものすごく火が好きなんだ。今日は見かけなかったから平気だと思うんだが・・・・。さっき回りを見に行ってみると他の獣が異様に興奮してたから、もしかしたら何か……獣同士の喧嘩でもあったかも知れない」
「へえ、良くあるの?そんなの」
「……いや、滅多に、無い。……獣達は、必ず私達を見ると逃げるから、どうとは言えないが……獣は知っているからな。人間だけは、満腹でも……襲って来るって」
サイラは遠い目をした。其の目の向こう側には闇があった。おそらくは動物達が隠れている闇――――――――。
「ただ、トウヤや、ギャイのようなハーフエルフ達なら逃げなかった。私はそれが羨ましかった。私だけ獣に嫌われてて、私が行くと二人の回りの小動物は必ず逃げて、大型動物は牙をむいた」
淡々と話すサイラに何と言っていいか解らず悩むココナッツ。
「トウヤはいつも慰めてくれたが、ギャイは決まって私を馬鹿にして行ってしまって・・・・あの頃はよく喧嘩したぞ。ギャイもトウヤも嫌いだ、って」
そこまで言ってからふと気が付いて独白をやめるサイラ。照れくさそうに笑いをかみ殺して、
「すまない。変なことを言ったな。毛布があるから、その火の近くに敷いて寝ろ。見張りをしておこう」
「う、うん」
素直に頷いてサイラから毛布を受け取ってココナッツは地面に敷いた。
「上に掛ける物は……」
「マントがあるから平気だよ」
「そうか」
サイラはことさら淡々と話している。照れくさいのだろうと判断して、ココナッツはつっこむのをやめた。
「……お前の知っているギャイは、どんな奴だ?」
「んん?えー……っと……」
ココナッツは毛布に潜って考え込んだ。
「……分かんないかも。ギャイ、自分のこと話さないし、あえて言えば……」
フィレスト国を潰したこと。
と言いそうになって慌ててココナッツは口をつぐんだ。辺境とは言え一応ここもフィレスト国の一部である。リージア国に出るまで……いやできればどこであっても言わない方がいいかも知れない。
「……あえて言うなら?」
サイラがさらに聞いてくる。声が微妙に変なので、ココナッツはそっとマントを下げた。暗くて全然なんにも見えなかった。
あきらめ、ココナッツは答えた。
「うん。動物には嫌われてたよ。リップなんか、持たせてもくれなかった」
「…………そう……か」
心なしか、少し失望したようなサイラの声。何を思ってか失望し、何を思ってか悲しそうだ。いなくなったギャイのことだろうか……。
「ねえサイラ。他に何かギャイのことで知らない?」
「…………そう、だな……。あとは……奴は、犯罪者、と言うことだけだ」
吐き捨てるように言う。ココナッツは首をすくめてマントをずりあげた。これ以上は藪蛇だろう、と判断して、話を打ち切るように明るく言った。
「そろそろ寝るね。私、もう眠くなっちゃった。サイラ、おやすみ」
「……ああ、お休み」
声がふと、優しくなる。彼女は、ギャイに関わることになると感情をむき出しにするらしい。
(一体何やったのさ!ギャイ!神像盗んだだけでここまで憎まれんの!?)
先行きは不安どころじゃない。そういやある島国で、好奇心はネコをも殺すって諺、有ったような気がする……。
そんなことを思いながら、ココナッツはゆっくりと眠りに落ちていった。
* * * * * * *
ぱきっ。
近くで枯れ枝の折れる音がした。
「――――――――誰だ!?」
さっとサイラが腰の剣に手をやる。さっきココナッツにも言ったがここは獣の巣だ。四十六時緊張してないと、弱い者なら数分で食われる。
サイラはぼうっとしていた自分を悔やんだ。
(くそ、まさかザフェルグじゃないだろうな……!私一人ならともかく、足手まといがいる今じゃ……!)
ギャイのことを考えてた。それで気が付かなかったのだ。
…………しぃ……ん……。
物音一つしない。
「……気の……せいか」
サイラは少し表情をゆるめた。それでもまだ緊張は解かない。
人を騙すことに長けた獣もいる。そのせいである。
しぃ……ん……。
やはり物音はしない。どうやらどこかに行ったものと判断して、サイラは息を付いた。
「もうぼけっとしないようにしなきゃな……」
苦笑してつぶやくサイラ。そして言葉通り彼女は一睡もしないで、時たま来る獣達を追っ払っていた。
だがその彼女でさえ、遂に気付かなかった。
ココナッツが壊した罠の後を、誰かが悠々とたどってきて、近くの木の上でそっと二人を見ていたことを。
* * * * * * *
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