1  FIRST CONTACT!
<GYAI>+<COCONATTU>+<RIPP>


「宝の地図だってぇ!?」
ギャイは大げさに叫んでから、またか、と言うように力なくかぶりを振った。浮かせかけていた腰を、二度、宿屋の食堂の安っぽい椅子に下ろす。
「ちょっとギャイ!その反応は何!?宝の地図だよ、宝の地図!!金銀財宝白馬の王子様つき!!」
「……いや白馬の王子様までつかんと思うぞ……」
拳を振り上げて力説したのはギャイの相棒の少女である。ココナッツと言う名の、見ため13,4くらいの生意気というか元気というか迷う女の子だ。
ギャイはその気なさそーにそっぽをむいた。
「じゃ行って来いココ。道も解らず迷いながらどぶにはまってぼろくずのようになってさらにそのまま人さらいにさらわれて主人のために馬車馬のように働く奴隷となりはてて、やっとこ逃げ出せたと思ったら見つけた宝が犬の骨だったという落ちをつけて異国の果てで独りぼっちで死ぬ老人になって来い」
「…………」
一息で言うギャイにココナッツは眉間を潜めて、
「…………なんか返答早かったけど…………。何で私の人生あんたにいつの間にか決められてんの?」
「……あのなぁココナッツ。どんな田舎のくそヘボ魔術師でも引っかからないよーなガセネタつかまされたあげく有り金すべて巻き上げられたのは確かおとついのことだったよーな気がするんだけどな、レベル2の魔術師。それをすべて忘れてるんだったらお前のその忘却力の凄さはきっとそこらのスライムにうらやまれるぞ。やったなココ」
「…………ひょっとしてそれ……イヤミ……?」
半眼で睨んでくるココナッツにギャイはことさら優しく言った。
「誉め言葉に聞こえたんなら罵詈雑言に言い換えてやるが?」
「……怖いこと言われそうだからいい……」
ココナッツはふるふると首を横に振った。
───ここは、元フィレスト国南端の小さな名もない村。
元、と言うのには訳がある。大きな国ではないが決して小さな国でもないこの国を……完全まっさらに潰した者がいるのだ。ちなみに今、ここに。
ギャイのことである。正確にはギャイ一人ではないが、表のブラックリストに乗っているのはギャイだけである。
とはいえこのハーフエルフの青年、頭脳はともかく魔術師レベルとしては下の下。せいぜいろうそくの火をつけられる程度というもの。そこでもう一人、ギャイ曰く『火のついたダイナマイトよりは使えるガキ』の少年が出てくるのだが……。
ま、その話はおいおいしよう。
それで、この二人、ギャイとココナッツが出会ったのはそのもっとずっと前。腐れ縁と言うべきもので今までずっと続いてる。
「きゅうん」
二人がいつものごとく日課の喧嘩をしていると机の下で長い耳を持つ小さな動物が一声鳴いた。ギャイの非常食……いや愛らしいペットのウサギで、リップと言う。
「おなか空いた?リップ」
ココナッツはひょいと小ウサギを持ち上げた。
「リップ、食うか?」
にっこりと優しい笑顔でギャイは嫌いなタマネギをリップに寄せる。
「ぷきゅう、きゅうぅ」
リップは問答無用でフォークごとタマネギを蹴り落とした。
「あっ、てめぇっ」慌てるギャイを見おろす目は
『わたくしにそれを食わせたいのなら跪いて靴をお舐め!おほほほほほほ!』と言っているように見えるのはギャイだけだろうか。
うん、ギャイだけである。
「リップにもなんか頼んだ方がいいかなあ」
「いや、いらん。出るぞココ」
彼はいきなり真顔に戻ってリップの長い耳をつかみ、席を立った。じたばた嫌がるリップ。
ココナッツはうんざりしたような顔つきになって、
「また刺客?この国の落ちぶれ貴族がさぁ、なけなしのお金払ってする仕返しって過激だよね」
……お前ほどじゃあないと、以前ココナッツの着替えを見てしまって、煮え立った熱湯にぶち込まれ3日ほど半死半生だった青年は思った……。
ココナッツは右手に可愛い……というか変なほうきを持って立ち上がった。
昼飯時で繁雑な食堂の客はさしてそれに注意を払わなかったが普通の民家なら一発で怪しい人扱いである。
「ここを出る理由の一つはそうだ」
ギャイはこそこそと身をかがめて食堂のおっちゃんの窓の下を通る。
「ついでに言うとおれたちは無一文だ。どこぞのぼけ娘のせいで」
「…………まあ、そういう理由もあったかな?」
明るく答えるココナッツは、それからギャイに習ってこそこそと店の扉を開けた。
そうして食堂からの脱出(世間ではこれを食い逃げと呼ぶ)を成功させた二人は、扉を開けて十数歩後に、「食い逃げだーっっ!!」という親父の怒声と追ってくる三人の刺客の
足音を聞きつけ、猛ダッシュで去るのである。





   *   *   *   *   *   *   *   *   *





「おいココ。今一人……減ったか?」
「うん。木の根にこけて自滅した」
うっそうとした森の中を走りながらギャイはフッと悟りきったように笑った。
「命を狙われてる気がしないのはそいつらが馬鹿だからかオレが図太いのか……」
「両方」
いらないことを言って殴られたココナッツはギャイにあかんべをしてほうきに飛び乗った。
「あっ、卑怯者!」ギャイが叫ぶ。
「オレだって実は息、苦しいんだぞコラ!オレは子供のときから苦しみだけは絶対みんなで分け与えようと決めてるんだ!」
「……やな子供……」ココナッツはつぶやくが下りてくる様子はない。
ちっ、とギャイは舌打ちをして自分の懐から一匹余裕をぶちかまして熟睡しているウサギを取りだした。リップである。
「どしたの?何する気?」
ココナッツがつつっと寄ってくる。
ギャイは指を舐めて上に差し上げた。
「いやリップに世間の辛さでも教えてやろーかと……。
風速良ーし。速度まずまず。角度は知らねえ。獲物もOK」
ギャイはくるりと振り返った。

「あっあっ、待ってギャ……もしか……」
ココナッツの止めるいとまもあらばこそ。
「飛んでけうさぎーーぃ!!お星様になってこぉーーいっ!!」
青空の下でボールを投げる晴れ晴れとした野球選手のようにギャイはリップを後方にぶち投げた。
「うわぁっ!」
とっさのことで反応しきれぬ追っ手その1。
がこんっっ!!
リップに正面衝突して追っ手その1は脱落した。ついでにリップも。
「リップ……。世間ってこんなにも厳しいんだぞ・……」
目頭を押さえるギャイのどたまに後ろからココナッツの強烈な蹴りが入った。
「あんたが世間を厳しくしてどーするっ!!こんのど外道ーーっっ!」
「でわあぁっ!!」
倒れかけて何とか踏みとどまる青年にココナッツは立ち止まりぎゃんぎゃんわめく。
「いい加減リップを投げつけんの止めろってのに!!確かこの前バスジルクに襲われた時もリップを空のお星様にしたでしょう!!」
「ココ」ギャイはひたと彼女を見つめる。ココナッツはちょっと引いた。
「サメさんとの友情を貫いたウサギはな、お星様にしてもらったんだ」
「……………………は?」ココナッツは聞き返した。
後ろの追っ手のこり一名は林の向こう側でぜひぜひ言っている。
ギャイはもう一度繰り返した。
「いなばの白兎って聞いたことあんだろ?サメがウサギをお星様にできたんだ。オレがリップを星にできねえはずがない。わかったか?」
「解るかぁぁぁぁぁいっ!!」
なんかストーリー違うしウサギ死んでねえだろと思いつつココナッツは絶叫した。
「と……ともかく!早くリップを助けに行こうよ!」
極めて常識的な意見に以外や以外、ギャイはあっさり頷いた。
「わかった」
ほっとしてココナッツがほうきに乗るのをギャイはにこにこ見ている。
「やーギャイがこんなにあっさり頷くなんて嬉しいなーいつもだったら30分はだだこねるでしょ?その間に逃げろよとか前、他の人につっこまれたしーでもやっぱギャイもリップは大事なんだよねうんうんでもこの前リップを16階から落としたけど一応助けに私を蹴り落としたし…………。ね、ギャイ聞いてる?」
上機嫌で話していた彼女はギャイがあいづちすら打たないので側を見下ろした。
風がさわやかに吹いている。
ギャイはとっとと去っていた。
「○▲★¥∞※‡×…………!」
ぶち殺す。
ココナッツは深く決意した。
「はあ……はあ……おい、手配中のギャイって奴は!?」
ちょうど悪いタイミングで追っ手がココナッツを見つける。彼女は暗くなってきた空を指さし壮絶な笑みを浮かべた。
「もうすぐあの空に浮かぶよ。ふふ…………ふふふふふふふふふ……」
懸命な追っ手はそれ以上何も言わなかった。





   *   *   *   *   *   *   *   





げめしぃっ!
後ろから来たほうきの一撃を難なくかわしてギャイはひらひらココナッツに手を振った。「よっ、ココ。おかえりー」
「………………ただいま」ココナッツはじと目でギャイを見る。
林を出てすぐ側にある巨大な岩の上に座ってギャイは二人(?)を待ってたのだ。
「んで、追っ手、どうなった?」
ギャイは朗らかに聞くが負けじとココナッツも優しく
「ギャイの氏名特徴年齢魔導師レベル好み性格すべて教えて帰らせた」
「…………」
まあましな反撃だろうとギャイは黙って頷いた。「そーいえば」と青年は首を傾げた。
「あの宝の地図とやらはどうしたんだ?それ、どこにあるって?」
「へえ、気になる?」
とたんにココナッツの声が嬉しげになる。そうゆう怪しげなもんが大好きなのだ。
「んー……と、ね。とりあえず北のリージア国辺りに行ってみよっか」
「ああ……北か」
「うん」
とりあえず二人と一匹は歩き出した。目的は北、に。
…………その実南に行ってたと解るのは丸々1日迷いまくってやっとたどり着いた村であの宿屋のおっちゃんが仁王立ちしている姿を見たときだった。
むろん、代金代わりの皿洗いをしながら,2人が責任をなすりつけ合ったのは言うまでもない…………。




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